こんにちは。サンキャリア代表の田村です。
本日は「M&Aをする際にチェックすべき労務管理のポイント(売り手編、前編)」についてお話します。
最近では経営者の高齢化がますます進んでおり、自社の事業を継続させるために、「事業承継」を考える企業が増えてきています。親族で経営している企業であれば「親族承継」、自社の熟練した従業員へ承継したい場合であれば「従業員承継」であったりと事業承継にもいろいろなパターンがあります。
上記の方法で難しい場合は、第三者に株式譲渡や事業譲渡の方法で買収する「M&A方式」を選択するパターンがあります。売却側のメリットとしては、親族が他に不在で従業員もほぼおらず、業務委託を使っているような小規模企業の為、売却先を広く探したいという際に利用しやすいというのが主に挙げられます。
また買収側のメリットとしては、現在の事業の多角化を進めていく為であったり今の自社の技術では対応できない事を、他社の技術を取り入れる事によってより磨きをかけていく際に利用しやすいというのが挙げられます。
今回は自社の事業を他社に譲り渡す側である「売り手側」がM&Aに臨む際に重要な点についてお話していきたいと思います。
【M&Aで重要な労務管理でのポイント(売り手側)】
① 法的に遵守すべき労務事項は必ず抜けもれないようチェックする
② 経営者・役員関係の社会保険加入等のチェックも忘れずに
③ どちらの言い分も通る労務管理事項については、エビデンスをしっかり残す
以上の3点が重要となります。
① 法的に遵守すべき労務事項は必ずチェックする
労働基準法や労災保険法等、法的事項が遵守出来ていない場合に罰則が明示されている項目に関しては必ず適切な労務管理を行うように心がけましょう。
例えば未払い残業、有給休暇の取得義務化、労働保険料の未納、労働保険年度更新手続きのミス、社会保険(健康保険、厚生年金保険)料の未払い、社会保険料の計算ミス等が挙げられます。
これらの違反に関しては各種法で罰則事項が設けられておりますので、法のルールに従って対応できていない場合は必ず是正しなければならないため労務管理の中でも優先的に対処すべき事項です。
買い手側にとっても、売り手側がしっかりと企業の労務管理が出来ているかを調査するプロセス「デューデリジェンス(労務DD)」を行う際に、まず①の事項を重点的に確認しますので、後々契約締結に至るまでの印象を良くするためにも対処しておくことをお勧めします。
② 経営者・役員関係の社会保険加入等のチェックも忘れずに
雇用する一般従業員に関する労務管理のみ重点的に行えば良いかというと、そうではありません。株式会社等の代表取締役や取締役、執行役員といった経営・役員層の社会保険(健康保険・厚生年金関係)の加入等が出来ているかをしっかりとチェックしましょう。
特に注意が必要なのが、月に数回程度出勤義務がある、「非常勤役員」や「顧問」等の社会保険に加入していない方です。これらは登記されている役員であれば役員報酬、登記されていない方であれば、業務委託として外注費を支払っている場合が多いです。
常勤の役員や常用雇用の労働者であれば社会保険に加入義務がありますが、それ以外の非常勤役員や顧問だったら社会保険に加入しなくても良いと考えている経営者の方も多いかと思いますが、非常に注意が必要です。
・月の出社日数
・毎月の報酬額
・株式の保有数、保有比率
・会社経営の中枢にどれだけ携わっているか
等によって、対象の方が常勤なのか、非常勤なのか、あるいは業務委託なのかを総合的に判断して年金事務所が社会保険の加入の要否に関して審査しますので、しっかりと会社で説明できるような根拠づけをしておくことをお勧めします。
本日は「M&Aをする際にチェックすべき労務管理のポイント(売り手編、前編)」についてお話しました。次回は後編をお話ししたいと思います。
執筆者:田村陽太(社会保険労務士)
産業機械メーカーの海外営業、社労士法人での勤務経験後、海外駐在員や外国人社員等のグローバルに働く社員が輝ける職場づくりを人事面からサポートしたいという想いで、社労士事務所を開業。海外駐在員や外国人社員の労務管理、外国人留学生・技能実習生の就労支援等、企業の国際労務・海外進出対応に強い。ラジオDJ、ナレーター、インタビュアー、番組MC・ナビゲーター等、音声メディアや放送業界でも活動。また、番組プロデューサー、ポッドキャストデザイナーとしてPRブランディング事業も手掛ける。株式会社サンキャリア代表。
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