こんにちは。サンキャリア代表の田村です。
本日は「M&Aをする際にチェックすべき労務管理のポイント(買い手編、後編)」についてお話します。
前回もご説明しましたが、買い手側がM&Aに臨む際に労務管理の点で重点的に対応すべきことは主に以下が挙げられます。
【M&Aで重要な労務管理でのポイント(買い手側)】
① 買収後に未払い残業代等のコストが発生しないように買収前に労務DDを行う
② 買収後の従業員の人事配置をどうするかについて構想しておく
③ 新しい従業員への社内教育は重点的に行う
本日はその続きの②以降の説明に関してお話ししていきたいと思います。
②買収後の従業員の配置や人事をどうするかについて構想しておく
前回ご説明した労務DD(デューデリジェンス)では、買い手側にどのような労務コストが発生する可能性があるか等の「定量的な指標」についてはある程度診断でき、事前のリスクヘッジを行う事が出来ます。
しかし、どのような従業員が売り手側の会社に在籍しているかや、該当社員がどのような業務を得意・不得意としているか等の、買収してからでないと買い手側の企業で知る事が出来ない「定性的な指標」は労務DD時に情報収集するのは手続き的にも時間的にも、非常に困難です。
ですので、買収する企業の業種や従業員数、会社の社風、職種等から総合的に判断して、どのような業務を新しくジョインする社員に会社で割り当てるのが適正かを事前にイメージしておくことが非常に重要です。
買い手側にとっても、売り手側の従業員がどのような社員かは非常に重要な関心事項ですが、売り手側の従業員にとっては今までと全く違う会社で働く事になるので、よりセンシティブな関心事項です。
さらに買い手側に前から所属している既存の従業員にとっても新しくジョインする従業員によっては働きやすくもなり、また反対に働きにくくなる可能性も秘めております。例えば、人間関係の軋轢が生じる事や業務が円滑に進まない事等の、組織が機能不全になってしまうケースも多く聞きます。
新しい会社で働く従業員も、受け入れる会社のメンバーもお互いにWin-Winとなれるように、どのように従業員を配置し、業務を任せていくかのシミュレーションを事前にしておく事を推奨します。
③ 新しい従業員への社内教育は重点的に行う
これは②にも関連しますが、新しく入社する従業員にとっては今までの社会人としての素養や能力が既にあるので、ある程度時間が経てば新しい会社での自身の業務にも慣れてきます。ただこのM&Aを行う目的の一つとして、買収側の会社の「組織活性化」という面が期待出来る事です。
新しい従業員が入ってくる事で今まで自社に無かった知見を習得し、事業をより多角化させたり、自身のコアビジネスにより磨きをかける事が出来たりするという側面がもちろんあります。
またその一方で、今まで改善すべきであった事項に提言してくれたり、芳しくない社風を改善しようとしてくれたり等、買収先に所属していた新しくジョインする従業員が、買い手側の企業に新しい風穴を開けてくれる存在となり得ることも、このM&Aの大きなメリットとして挙げられます。
よって、買い手側企業の心構えとして、M&Aでの従業員確保はただの労働力の確保と考えるのではなく、より従業員にとって働きやすく、そして魅力的な企業とする為の千載一遇のチャンスと捉え、積極的に教育を行っていくことが非常に重要です。
私個人的な意見としては、買収先の従業員への教育スタイルとして、最初は彼らを経営層や人事部直属にして、いろいろな部署での業務を経験させることが重要だと思います。そして各部署の管理職やマネジメント層と経営層で都度相談しながら、部署の組織改善も視野に入れて人材教育や配置転換等の人事的な処遇を考えていくのが重要だと個人的に思います。
本日は「M&Aをする際にチェックすべき労務管理のポイント(買い手編、後編)」についてお話しました。今回までの4回でM&Aに関わる労務管理について詳しくお話いたしました。
労務管理が行き届かなかったことから発生する人件費増加等のコストの問題だけでなく、今後採用する従業員の確保の問題や、プロパーで在籍した従業員のモチベーションや就業意欲低下にも繋がる等、M&Aを行う事において労務管理の問題は非常に重要な懸念事項です。
弊所でもM&A時の労務管理についてサポートしておりますので、ご用命があればいつでもご相談ください。
執筆者:田村陽太(社会保険労務士)
産業機械メーカーの海外営業、社労士法人での勤務経験後、海外駐在員や外国人社員等のグローバルに働く社員が輝ける職場づくりを人事面からサポートしたいという想いで、社労士事務所を開業。海外駐在員や外国人社員の労務管理、外国人留学生・技能実習生の就労支援等、企業の国際労務・海外進出対応に強い。ラジオDJ、ナレーター、インタビュアー、番組MC・ナビゲーター等、音声メディアや放送業界でも活動。また、番組プロデューサー、ポッドキャストデザイナーとしてPRブランディング事業も手掛ける。株式会社サンキャリア代表。
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