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執筆者の写真田村陽太

【第72回】海外現地法人設立の進め方(⑤労働力の確保と労働法)


こんにちは。サンキャリア代表の田村です。



本日は「海外現地法人設立の進め方(⑤労働力の確保と労働法)」についてお話していきたいと思います。



第67回のニュースでも簡単にはお伝えしましたが、海外現地法人として事業規模が段々と大きくなり、ローカルの外国人社員を雇用して事業を行っていく段階になった際に注意すべき点を、労働法的にご説明させて頂きたいと思います。



まず押さえておくべき点として、海外で現地採用されるローカル社員は、会社が日系企業であっても現地国の労働法が適用されるという事です。「日本と比較すると海外の方が労働法の規制が緩いのでは?」と思われる方も多いかもしれませんが、その考えはおおよそ間違っております。



例えば、日本で働く外国人労働者数が一番多い中国では、労働法の条項を見ると日本より厳しいルールが沢山あります。



・労働契約書は、雇用関係締結後、30日以内に必ず交付しなければならない

・割増賃金率は1.5倍

・有給休暇は、今の現職と前職での通算の勤務年数により付与日数を決定する

・正社員もパートも有給日数は条件が合えば一緒(比例付与はない。)

・有休消化できなければ300%の割増賃金の支払いが必要



(参照:ジェトロビジネス関連法:労働契約法実施条例)



中国の例を一例に、それぞれの国で労働法の中身が異なるので、必ず現地社員を雇用する前には日本との代表的な相違点に関しては理解しておく必要があります。また法規制が厳しい事から発生する人件費の算出シミュレーションも厳密に行っていく必要があります。



次に注意しておくべき点は、ローカル社員への業務の指揮命令を明確にする事です。日本人の感覚だと、「これやっといて。」と言われたら周りの従業員のやり方を見て覚え、分からない事があれば同僚や先輩に聞いて、自分なりに考えて対応しようとする傾向にありますが、外国人にはそのような忖度はありません。



なぜなら、自身が働いている根拠は会社と締結した労働契約に記載している業務内容に準拠し対応する事だからです。業務内容に記載されていない事や会社の経営層や上司から指示されていない事は、契約外の内容という事で責任を負わない・負う必要がないと考えるローカル社員も多いです。



日本人の感覚だと「あり得ない!」と考えてしまいますが、労働契約の意義に立ち返ると、本来ローカル社員の感覚の方が当然だという考えが世界では普通です。




ですので、ローカル社員に対して会社が指示をする際の理想的な方法として、



・やってもらいたい事(業務内容)を伝える

・その業務の目的を伝える

・業務マニュアルの作成や経営層が考える自身のベストな業務手順の伝達を行う



というような流れでローカル社員に明確な指揮命令を行う事が重要です。またローカル社員のリーダー格(ローカル社員でも現地採用の日本人でも可)を決めて、上記進め方を徹底してもらい、そのリーダー社員を筆頭に各ローカル社員に業務指示を行ってもらう事も重要です。



そして、最後に注意しておくべき点は、従業員の意図や真意をしっかりとくみ取る事です。具体的に申し上げますと、従業員へ業務指示や指揮命令をした際に、どのように行動するのか、目標を達成するのかの道筋を必ず確認することが重要です。




例えば、ローカル社員から「出来ます。」と言われた時にも、「それってどうやって達成しようと思っているの?」と聞く事や「分かりました。」と言われた時も「どういう点を反省したの?」と聞くように習慣づける事が大事です。




仮に解雇や給与関係の労使トラブルが起きた際に、「会社は明確に業務指示をしていた」というエビデンスを会社が提示できるように、日頃からこのようなコミュニケーションを徹底する事が重要です。



今回は海外現地法人設立の進め方(⑤労働力の確保と労働法)についてお話しました。次回は海外現地法人設立の進め方(⑥日本本社の現地支援体制の構築手順)についてお話させて頂きます。





執筆者:田村陽太(社会保険労務士)



産業機械メーカーの海外営業、社労士法人での勤務経験後、社労士事務所を開業。海外駐在員や外国人社員の労務管理、外国人留学生・技能実習生の就労支援等、企業の国際労務・海外進出対応に強い。ラジオDJ、ナレーター、インタビュアー、番組MC・ナビゲーター等、音声メディアや放送業界でも活動。また、番組プロデューサー、ポッドキャストデザイナーとしてPRブランディング事業も手掛ける。



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